コントラクトがダウンしたとき。
ノンバルは 50、100、150…、
バルは 100、200、300…。
このブログを読んでいる方々には今さらですが。
「ダブル付きのコントラクト」がダウンしたときには。
| 1ダウン | 2ダウン | 3ダウン | 4ダウン | 5ダウン以上 |
ノンバル | 100 | 300 | 500 | 800 | 300ずつ増 |
バル | 200 | 500 | 800 | 1100 | 300ずつ増 |
ノンバルは、百、三百、五百、八百…300増し。
バルは、二百、五百、八百…300増し。
これも今さらなのですが。
1987年に規則が改正されるまでは、ノンバルのダブル付きダウンは、
「100、300、500、700、900…」でした。
これが「100、300、500、800、1100…」に改正された理由は、
ノンバルのダブル付きダウンが「安過ぎた」ということです。
それはそれとして。
規則が大幅に変わると、現場で事件が起きるのは避けられません。
1990年。スイス、ジュネーブ。
世界選手権 「ローゼンブルム杯」には179チームの参加が。
準決勝(ベスト4)は14ボード×4セグメントの56ボード。
ドイツ・ルードヴィッヒ(Ludewig)チーム 対 カナダ・スタイン(Stein)チーム
の最終結果は 154対151 IMPでドイツチームの勝ち。
3 IMP差で負けたカナダチームの誰もが眠れぬ夜。
ひとりが気づきます。
41番ボード
ディーラーWest、NSバル
W:Kokish(カナダ)
N:Bitschene(ドイツ)
E:Mittelman(加)
S:Ludewig(独)
2
= Unspecified Weak、
か
か
か
の「弱い」プリエンプティブ
W | N | E | S | |
2 | 2 | DBL | ReDBL | 3 | 3 | 4 | 4NT | 5 | DBL | All | Pass | | | |
|
W:Rohowski(独)
N:Kirr(加)
E:Nippgen(独)
S:Hobart(加)
2
= MULTI、
か
のWeak-Two
6
は程なく6メイクでドイツチームのプラス1430点。
反対テーブルの5
xは
KリードをNorthがエースでオーバーテーク。
にシフトして、ディフェンスは
を出し続け、Northがラフ。この後、
が3巡続きます。ディクレアラーは
を切り、
ラフでダミーに入り、
を引きます。Northは
が無くなっているのでショーアウト。Southが
トランプであと2トリックを取ることを宣言してプレー終了。ディフェンスが
8トリック、ディクレアラーは5トリックを取るのでシックスダウン。
ところが。
プレーが遅れていたので、担当ディレクターのマーリー・ブラウンスタイン
が進行をせかしていました。テーブルの誰かが「1100点」と言い、全員
がプライベートスコアに「ディクレアラーが6トリック」と書き入れます。
公式記録担当者も「5
x by E、6トリック、NS+1100」と記入。
このボードはドイツチームの330点取りで、プラス8 IMPになります。
ノンバルのダブル付きシックスダウンは、旧スコアだと1100点。
ところがときは1990年。新スコアだと1400点です。
となると、このボードでドイツチームはプラス1 IMP。
公式記録は 154対151 IMPでドイツチームの勝ちですから、
ドイツチームは7 IMP減って、147 IMPに。勝敗が逆転します。
このことにカナダチームの一員が真夜中に気づき。午前5時にチーム
キャプテンに連絡。午前8時に対戦相手のドイツチームを呼び出して、
実際に5トリックしか取っていないことを事実確認。主任ディレクターの
ビル・ショーダーに報告。ディレクターは5分間ほど検討ののち、スコア
の訂正は認められないとの意見を伝え、上告を促します。
大会試合要項には「明らかに間違っている(manifestly incorrect)」
スコアはディレクターまたは上告委員会の指示により訂正可能。また、
訂正期限は「次のノックアウト試合が開始されるまで」となっていました。
果たして。
9時半に召集された上告委員会は以下の5名。アウケン(デンマーク)、
ダミアニ(フランス)、ドルシー(ブラジル)、カプラン(米国)、エンディコット
(英国)。世界ブリッジ連合の大物理事と、規則関連の大御所達です。
30分後に出された結論は、「訂正不可」。
その理由は、「5
x、6トリック、NS+1100」の公式記録は「明らかに
間違っている(manifestly incorrect)」スコアでは無い。
憤慨したカナダ・スタイン(Stein)チームは3位決定戦の参加を拒否。
対戦相手の米国・ラピー(Rapee)チームもこれに同調。公式記録は
3-4位同着に。当時は銅メダルというものが無かったので、盛り上がら
ない3位決定戦よりも、北米人はスイス観光を選んだとも思えます。
ドイツチームは決勝戦の参加を見合わすべきだ、との意見もあった模様。
しかしながら英語を母国語とする人の間でも “manifestly incorrect”
の解釈に異論があるところを、ドイツ人にわかるはずもなく。大会運営者
の決定に従うしかないというのが公平な見方で。翌日の大会会報には
上告委員会の見解と、ドイツチームキャプテンの釈明が掲載されました。
決勝は64ボード。
ドイツ・ルードヴィッヒ(Ludewig)チームは米国・モス(Moss)チーム を
145対132 IMPで破って優勝。
本件に関して「世界選手権報告(World Championship Book)1990」
の記述の一部は事実関係が正確ではないようです。また、執筆担当者が
規則解釈について独自の見解を披露する記述も散見されます。
バーネット・シェンキンのウェブサイトには、当事者達に直に確認した正確
な記事が出ています。
なお現在の世界選手権の試合要項では、スコアの訂正は「当日」、「試合
結果掲示後30分以内」。例外は上告などの審査を待つときと、プレーを
要求されたボードの終了を待つときだけとなっています。