試合での典型的な「教科書プレー」のハンドの記録をとったことがあります。
そしたら、あるわあるわ。そのうちいくつかを紹介します。
まっさきに思い出すのは1995年の萩原杯。
第3セッション 7番ボード(ディールを回転)
ディーラーEastのパス、Southの1
から始まって、コントラクトは4
。
デイフェンスは
を攻め続けます。
ディクレアラーは手元の
を捨て続けて開幕3連敗。残りを10連勝です。
仮に2巡目の
をラフするとコントラクトはダウン。
ところが3巡目の
をラフすると結果的にはメイクするのが面白いところで。
を4巡回収して
を走ると、ディクレアラーは
5+
4+
1で10個。
右手が
をラフすると
のウィナーが1個減りますが、その代わりに右手が
スローイン(throw-in)になって、
Qが取れるようになるからです。
(
の2巡目を見送って3巡目をラフする人も希有と思いますけど。)
実際の試合ではフライトAの全テーブルで4
になりましたが、つくったのは
ご夫婦ペアの奥さんただひとりと記憶しています。
2008年 NEC杯
W | N | E | S | |
| P | 2 | 3NT | P | P | P |
|
ディーラーN
EWバル
ディクレアラーは
リードを勝ち、手元から
A、アナザー
と出したので、
右手から再び
を攻められてあっけなくダウン。
正しくは
でダミーに入って、
を引きます。右手がスモール
なら手元で
カバー、右手が
Qならエースで取って、手元から
を負けに行きます。
いずれにしてもリードが右手に入らないので、
のストッパーを堅持できます。
この手口は方々の本に出てきますが、新しいところでは以下のものが。
米国ブリッジワールド誌2012年8月号参照
Southの2NTオープンから始まって、コントラクトは3NT。
のリード。
右手は
Aで勝って、
Jを返します。ディクレアラーが
Aをホールドすると、
左手は
Qでオーバーテークして
を攻め続けます。
実はもう手遅れ。
2巡目の
をエースで勝ち、手元の
絵札を取らずに
でダミーに入って、
を引きます。右手がスモールなら
絵札で勝ち、再び
でダミーに入って、
を引きます。いずれにしても右手から
Qが出てきたら、これに勝たせます。
左手にリードが入ることはありません。
手元から
絵札を取ると、右手は
Qを捨てる可能性があります。
また、
Aをホールドすると、3巡目の
のときに右手が
Qを捨てます。
(ディクレアラーは
の分かれが4333なら、
3-2の分かれで簡単にメイク。)
(ディフェンス側は
の3巡目で、左手が
にエントリーらしきものがあることを
示唆できます。)
2008年 夏季全米ナショナル・スイスチーム戦
ディーラーS
ノンバル
4
はスプリンターレイズ。オープナーの最初の「パス」はフォーシングで、
オフェンスに前向きなハンドを表しました。4NTはキックバック適用で
Aの
キュービッド(記事
MINORWOOD参照)。オープナーの次の「パス」も
フォーシングで、スラムに前向き。レスポンダーは願ったり叶ったりでしょう。
オープニングリードは
A。
ディクレアラーのラリー・コーエンはトランプを狩り集めながらマイナースーツ
をストリップアウトしたのち、手元とダミーの両側からスモール
を出しました。
3-2の分かれはもとより、
Q/J/10/9 いずれのシングルトンでも
ディフェンス側がスローイン(Throw-in)になってメイクです。
(このプレーの他に、
AKを取りながら
を掃除して、
Jで右手にスローイン
するプレーもあります。また、
Qで右手にスローインするプレーも成功します。)
同じような手口は方々で紹介されています。そのうちひとつを。
「カード プレー テクニック」 ビクター・モロー、ニコ・ガードナー共著(1971年刊)
Southの1
オープンから始まって、コントラクトは6
。
Qのリード。
Aで勝ち、
を回収しながら、
を掃除(エリミネーション)。その後、手元の
絵札をひとつだけ取ってから、
で負けに行きます。実際のディールでは、
右手が
を取ったらラフ&スラフ(ラフ&ディスカード)、左手が
を取ったら
の打ち込みになります。
このプレーは
3-2の分かれのときと、
J/10/9 シングルトンのときに
成功します。また、プレーの早い段階でダミーの側からスモール
を引いて
おくことが勧められます。右手が「
J109x」から高い
をスプリットする
可能性があるからです。
2008年 横浜インビテーショナル
Northの1
オープン、右手の1
オーバーコールから始まって、Southの4
。
ディフェンスは
を2個取ったのち、トランプにシフトします。
ディクレアラーはトランプを狩り集めた後、
AKラフと進め、
でダミーに入って
4枚目の
を引きます。右手がフォローしたら、手元の
をルーザーオンルーザー。
右手がスローインになります。
この手口も前述の「カード プレー テクニック」に出ています。
2008年 日本リーグ
Southの1NTオープンから始まってSouthの4
。オープニングリードは無難な
スモール
。ディクレアラーは
A、
をクィーンでフィネスののち、
A、
ラフ。
引き続き
AK、
ラフ。
の4枚目を手元でラフ。ほどなく5メイク。
フィネスが成功した時点でサイドスーツのウィナーは6個。トランプで4個を
取れば10トリックに達するのでクロスラフしました。
左手はがっかりかも。
Aのときにキングを放出したらディフェンス側にチャンス
があります。
2008年 横浜インビテーショナル
Northの1
オープン、1
レスポンスから始まって、ほどなくSouthの6
。
オープニングリードは無難そうに見える
10。ダミーからはジャック。
右手は「サード ハンド ハイ」?
右手からは以下のように見えています。
(ダミー)
KJ85 (右手)
リード
10
Q432
ディクレアラーの手元に
Aがあることは明白でしょう。
Aシングルトンのときには、
Qは出さない方が良い。
Aダブルトンのときには、
Qを出しても3トリックは取られてしまう。
Aトリプルトンのときには、
Qを出すと4トリックを取られてしまう。
以上から右手は
Qをダックします。
実際の準決勝では両テーブルとも
Qを出してしまって6メイク。
それさえ出さなければ、ディクレアラーは
と
に1個ずつルーザーが出ます。
「教科書プレー」はたくさんあるのですが、「教科書ディフェンス」はあまりなくて。
平凡にダウンすることが多いせいでしょうか。
あるブリッジの英語本の最終章に。プレーの本ですが、著者自身が実際に遭遇
したのは唯一、'せこい'ディセプションのハンドだけだという「落ち」です。いま考え
てみると、これはよく考えられた「オチ」だったようです。フランク・スチュワート著
「コントラクト・ブリッジ・クイズブック」(1986年刊)かと思いましたが、違いました。
このような「オチ」を思いつくのはエドウィン・カンターかもしれません。実際の試合
では、本に出て来るようなプレーのハンドはけっこう頻繁に出てくるようです。